二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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今回も蜀さんち。
去年、江戸時代の儀礼を書いた本の校正をしましたが、東西南北どっちへ進んでいるのかわけがわからなくなったことを思い出しました。この時代はちゃんと調べていないので、こんなに複雑じゃなかったらごめんなさい。
そういえば蜀さんちカラーは青でした…合いすぎ…
去年、江戸時代の儀礼を書いた本の校正をしましたが、東西南北どっちへ進んでいるのかわけがわからなくなったことを思い出しました。この時代はちゃんと調べていないので、こんなに複雑じゃなかったらごめんなさい。
そういえば蜀さんちカラーは青でした…合いすぎ…
「あーもう、分かんない!」
花が悲鳴のように叫んで、芙蓉は額を押さえた。
「もう、色気のない声を上げないの。」
「だって、どうしてこんなに複雑なの!? 玄徳さんと結婚式するだけなのに、何歩歩いて右とか、もう覚えられないよ!」
「仕方ないでしょう、あなたは一国のあるじの妻になるのよ?」
芙蓉が言うと、花の頬がてろん、と緩んだ。
「そうなんだよねえ…」
花の声が桃色に染まっているような気がする。芙蓉は苦笑した。
「仕方ないわ。休憩にしましょう」
「わーい、芙蓉姫大好き!」
「はいはい」
抱きついてきた彼女の頭を撫でる。花がにま、と笑った。
運ばれてきた甘い菓子に喜々としてかぶりつく姿は、とても婚儀を控えた娘には見えない。そういうところを玄徳も愛しているのだろうが、結婚したら少し落ち着くのかしら、と芙蓉は心配になる。
茶を飲んで大きな息をついた花は、小首をかしげて芙蓉を見た。
「ごめんね、芙蓉姫。新婚さんで忙しいのに、ずっとつきあわせて」
「わたしが花に協力したいの。それだけよ」
「うん。ありがとう」
花が安心したように笑った。
一国のあるじの婚儀となれば、それは壮大な儀礼だ。本当は婚儀のための官も居るし、礼儀を教える女官もいる。だがそれだけでは花が萎縮してしまっているから、と玄徳が芙蓉に頼んできたのだった。
(夜中に庭の隅で泣いていたりするんだ)
玄徳は、本当に困り果てたといった有様で芙蓉の前に現れた。
(俺の妻になれる気がしないと言ったりして…可愛そうで)
まるで彼にまでその憂鬱が乗り移ってしまったかのような表情に、芙蓉は謹んで花の相手を拝命した。…そこまで大げさなものでも無かったのだが、芙蓉が花の側に来て三日、彼女は目に見えて元気になり、頬も赤みがさしてきている。
扉が軽く叩かれた。芙蓉が返事をすると、そうっと玄徳の顔がのぞいた。花を認めて微笑む。
「玄徳さん!」
花が立ち上がる。芙蓉は立ち上がって一歩引いた。
「ああ、そのままでいい」
大股に歩いてきた玄徳は、花の頬を撫でた。花を見つめる目はもう、甘さを隠さない。
「よし、元気になったな」
「すみませんでした、心配かけて」
花が頭を下げるのに、玄徳は苦笑した。
「なんだ、いつまでも臣下のように。」
からかう声に、花の顔が紅くなる。
「…まだ、臣下です。」
「寂しいな。」
「…もうっ」
花がくるりと後ろを向き、芙蓉の背に隠れた。芙蓉は慌てた。
「花!」
「ああ、いい。…芙蓉も、ありがとう。」
「いいえ。玄徳さまと花のお手伝いができて嬉しいですわ」
「俺も、お前がいてくれて良かったと思っているよ。…花」
はい、と、芙蓉の背中で消え入りそうな声がした。
「お前の花嫁姿を楽しみにしている。」
その声は、芙蓉でさえかつて夫からも聞いたことがないのではないかと思うくらい温かかった。背中で、花が身じろいだ。
「…わたしも、最初の花嫁衣装を着る相手が玄徳さんで良かったです。」
「そうか」
玄徳が嬉しそうに笑った。
「がんばり、ます」
「花は少し抜けているくらいでちょうどいい。」
「師匠みたいなこと言わないでください!」
芙蓉の肩から顔を出した花の髪を、玄徳はひょいと手を伸ばして撫でた。
「心外だ。」
「しし心外って」
「俺は誰よりお前を可愛いと思っているぞ」
芙蓉は盛大に咳払いをした。玄徳が、少しも悪びれていない笑顔を芙蓉に向ける。
「邪魔したな。…じゃあまた、花」
彼女の返事も待たずに、玄徳は扉へ歩いていく。花の手が、芙蓉の腕を強く握った。
「げ、玄徳さんっ」
裏返った声に、彼が怪訝そうに振り返る。
「玄徳、さんも、これきりにして欲しいです! 花婿になるの」
必死の声に、玄徳は真顔になった。花の力がより強くなった。玄徳は静かに笑みを浮かべた。苦笑のような、愛おしみのような、諦めのような、不思議な微笑だった。
「お前だけだよ。」
扉が静かに閉まる。床に座り込んだ花の頭を、芙蓉はそっと抱え込んだ。
「…嘘つきな、玄徳さん」
「そうね」
「国の、あるじなのに」
「うん」
その立場のために呉から姫を貰った時、花は姫がずるいと泣いていた。結局その花嫁は偽物だった訳だが、臣下として自分に強いた痛みを彼女は時折思い出すようだ。玄徳を見つめる目が遠くなる。
「だから花は、たくさん幸せになるの」
芙蓉は物語を歌うように小声で言った。芙蓉の膝に置かれた花の手が小さく動いた。
「たくさんの祝福と、たったひとりの夢を分け合って、幸せになるのよ。」
花が、長々と息を吸った。
「うん。…たぶん、大丈夫。いま胸が痛いのは、これが夢じゃないって分かるためだと思うもの。」
花がゆるく頭を振って、芙蓉は腕を解いた。素直な、それでも恋する女の目がにこり、と笑った。
「だからよろしくお願いします、芙蓉師匠」
「なにそれ、やめてよ! わたしあんなにねじれてないわ」
「あはは。」
「さあもう休憩は終わり! 次は通しでやるわよ」
「はーい」
芙蓉の手を取って立ち上がった花は、口の中で段取りをぶつぶつと唱え始めた。
「さあ、じゃあ一歩進んで一礼して」
芙蓉の声に、裳裾が揺れる。髪が揺れた先に、芙蓉は確かに、彼女の夫となるひとの笑顔を見た気がした。
(2010.4.24)
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