忍者ブログ
二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 既にお描きの方がたくさんいらっしゃるであろう…被ってたらごめんなさい。
 本当に、スケジュールに余裕がないときに限ってわくわくしたくなる。
 
 
 花ちゃんと玄徳さんのお子さん視点であります。苦手な方はご遠慮くださいませ。
 
 
 
 
 


 
 
 
 井戸端に母上が立っている。羽織っているのは、父上が求めさせた羊毛の織物だ。分厚くて重たいが、この土地の気候にはちょうどいい。
 しかし問題は、母上が自ら井戸端に立っていることだ。こんな早朝に、なんだろう。
 「…母上」
 意を決して呼びかければ、なあに、と優しい顔が振り向いた。
 「あら、おはよう」
 「おはようございます」
 「今日は早いのね」
 「丞相に付いて周辺の視察に出ることになっています。」
 「ああ、師匠が言っていたっけ。気をつけてね」
 「…こんな早朝におひとりで水くみですか」
 母上は苦笑した。
 「玄徳さんがだいぶ酒を過ごしたみたいで、冷たい水を用意しておこうと思って」
 「侍女を呼べばよろしいのではありませんか」
 「うん、でもまたこんな時間だし」
 水たまりに薄く張った氷に足先でひびを入れながら、母上は笑った。子どものするようなことをいつまでもなさる。わたしは近づいた。
 「あの…これを」
 長いこと握りしめて生ぬるくなったそれを差し出すと、母上の丸い目がますます丸くなった。
 「蛤?」
 「城下で買ったのです。手荒れに効く塗り薬だと申しておりました。暖かいところで取れる貴重な木の実から作った薬が入っているそうです。」
 下級の女官でもないのに、母上の手は荒れがちだ。もともとが繊細だからな、と父上が自慢するように言っていたのを思い出す。母上の顔が輝いた。
 「わたしに?」
 「はい」
 「ありがとう!」
 母上が強くわたしを抱きしめる。幼い頃はこうして抱きしめてくれることが多かったのに、最近はほとんど無い。もう母を恋しがる年齢でもない、と見られていることは知っている。
 母上と、そして父上の匂いだ。
 「んー? なんだ、早いな」
 寝起きの声が背後でして、ぱっと抱擁が解かれた。
 「玄徳さん」
 「花が居ないから探しに来てしまったぞ。お前もいたのか」
 母上を抱きしめながら、ついでのように父上がわたしを見る。わたしは、おはようございます、とだけ言った。
 「ああ、おはよう」
 「玄徳さん、これ、これを見て下さい」
 母上がはしゃいで、さっきわたしが渡した薬を玄徳さんに見せた。
 「手荒れの塗り薬なんですって。」
 父上はわたしと母上を交互に見、わたしに笑いかけた。
 「そうか、気が合ったな」
 「…なんのことですか?」
 母上だけでなく、わたしまでぽかんとした。父上は笑いながら、袂から薄い布を出した。
 「手袋?」
 「絹の手袋をして寝ると手荒れが治る、という話を以前していただろう。薄く仕立てさせるのに時間がかかって、冬の前に贈ることができなかったが、ようやく上がってきたのだ。はめてみてくれ」
 母上がおそるおそるその手袋をはめた。自分が見ても、まるで朝靄を紡いだように薄いのが分かる。母上は具合を見るように何度も手の甲を擦ると嬉しそうに父上に頭を下げた。
 「ありがとうございます」
 「大仰だな」
 「この子のくれた薬を塗って玄徳さんのくれた手袋をして寝れば、きっとばっちりです!」
 ばっちり、という言葉が上出来、という意味だと知っている。わたしは安堵して父上を見た。父上はどちらかと言えば、苦笑に近い笑顔になっていた。
 父上は指示して高価なものを仕立てさせることができるが、政務の多忙さゆえに自ら出向くことはできない。
 わたしは扶持をもらっているわけではないので高価な贈り物をすることができないが、父上に比べれば身軽なので、自分で贈り物を探しにいける。
 こんな、張り合うような気持ちを持っているのは自分だけだろう。父上は父上のお考えでなさっているだけのことだ。
 父上が近づいてきて、わたしは顔を上げた。頭に大きな手が置かれる。
 「花のことを考えてくれて、ありがとう」
 率直な物言いに、わたしは俯いた。
 「…母上ですから」
 「だからこそ嬉しいんじゃないか。」
 父上の手が離れ、頭が寒くなる。母上は、いつの間に汲んだのだろう、小さな桶を抱えて笑っていた。その桶を父上が受け取り、ふたりが並んで歩き出す。あ、と思った時、母上がひょいと振り返った。
 「気をつけて行ってらっしゃい。」
 …母上が、笑っている。
 「はい」
 わたしは、頭を下げた。そのあいだに、父上と母上の姿は見えなくなっていた。はあ、と大きな息をつけば、それは未練げに漂って消えた。
 
 
 
(2010.12.13)

拍手[62回]

PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア
プロフィール
HN:
のえる
性別:
非公開
メールフォーム
カウンター
アクセス解析

Template "simple02" by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]