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 長岡くんと、その友人。とあるお昼の風景です。(花ちゃんは登場しません)




 「このサラダ、何て言うと思う?」
 広生は眼鏡を押し上げた。友人の表情は、教えたくてしょうがないといったふうに愉快に歪んでいる。彼がこんな顔をするのは珍しい。この友人は将棋が趣味で、下ネタを言っても表情が変わらないので将棋の技名かと思ってしまうくらいなのだ。
 広生は昼食時、たいがい、持参の弁当を食べる。相手のクラスメイトはこの友人であることが多いが、お互い約束している訳ではない。その彼が、購買部で買ったコロッケパンのかすを唇の端に付けながら、広生の弁当をのぞき込んで言ったのだ。今日の広生の弁当は、レタス多めに、昨日の残りの筑前煮と卵焼きだ。
 「何って、レタスだろう」
 「ざーんねん。」
 わざとらしくダメ出しをした友人は、内緒話をするように心持ち顔を広生に寄せた。
 「レタスだけのサラダって、ハネムーンサラダと言うらしい」
 「…珍しいな、お前がそんなことを言ってくるのは」
 僅かに驚いて言うと、友人はすっと身を引き、いつもの淡々とした表情に戻って言った。
 「そのリアクションはやはり長岡だな」
 「ん?」
 「姉がそう言ってからかってきたんだ。多感な男子高校生をからかうことに、あれは生きがいを見いだしている」
 姉のことをあれ、というのもどうかと思うが、からかいたくなるような風情が、常は淡々とした彼にあるのも事実なのだろう。そこは己と似ているらしいので、同情する。
 「そうか。ところで、どうしてハネムーンサラダ、なんだ」
 「レタスだけ、という綴りが、私達だけにして、という綴りの英語に似ているそうだ」
 「なるほど」
 あいづちを打ちながら筑前煮を食べる。
 「仲良くするのに忙しくて凝ったサラダを作る時間がないからかと思った」
 友人は目を丸くして広生を見、悔しそうにコロッケパンの袋を潰した。
 「そう言ってやれば良かった…!」
 心底、残念そうなその様子に笑いながら、広生は、この話題は花と食事している時はずっと思い出すだろうなと思った。


 


(2015.5.8)

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