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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 広生くんと花ちゃん。でも彩ちゃんとかなちゃんがたくさんです。



 昼食の教室は騒がしい。購買でジャムパンしか買えなかったかなが、花のおかずを取ろうとして一悶着あった。花とて、今日は移動教室ばかりでお腹がすいている。広生にならまだしも、みすみす彼女に取られるような余分はない。最も、広生に食べて欲しいと思うようなできばえにはまだなっていないのが現状だ。
 昼食に関するかなの愚痴が一段落したところで、三人のまわりはふいにしんとした。この感じは嫌いでは無い。彼女たち相手だと、何か言わなければと焦ることがない。
 花はふと、自分の携帯電話を空にかざした。曇り空に、使い込んだ機械はにぶく光る。
 「何してるの」
 彩が箸を止め、怪訝そうに言った。
 「なんだか最近、調子が悪い気がして…」
 花は携帯電話をちょっと振った。ジュースを飲んでいた、かなが吹き出した。
 「何してるのよ」
 「機械の調子が悪くなると叩いてるアニメ、このあいだ再放送してたんだ。」
 「昭和だよー」
 彩が呆れたように言う。かながけらけら笑った。
 「携帯電話は無理でしょ!」
 「だよねえ」
 花は手のひらのそれを撫でた。
 「花、それ大事にしてたもんね」
 「うん…」
 あの世界へともに行って、帰って来た。あちらでは機能しなかったけれど、それでも大事なよすがだった。
 「新しいの、買わなきゃかなあ」
 呟きを聞いた途端、かなが目を輝かせた。ジュースを机に置いて花に顔を近づける。
 「スマホにしなよ! ほら、新製品が出たじゃん。きらきらしたやつ! かっわいいよーあれ!」
 花はかなを叩く真似をした。
 「そんなお金ないし。それにあれって予約しないといけないんじゃない?」
 「かなだって、新しいの欲しいとか言ってたじゃない。変えたら?」
 「お金がないもーん。」
 けろりとかなは言って、紙パックを強くすすった。花はため息をついた。
 「予告してから壊れるならいいけど、そうじゃないもんね。メールとか消えちゃうと困るなあ」
 「メールはね。確かに」
 彩が弁当箱のふたを閉めながら呟いた。
 「アドレスだったら聞き回ればいいもんね。」
 「花は、特にねー。」
 かながにこにこと言った。花は教室に広生がいないことを確認して、それでも少し頭を低くした。
 「うん。」
 かながふいと真顔になった。横顔に、いつに似ない鋭い線が浮かんだ。
 「あのさ、すごく大事な用件ってあるじゃない。バイトの連絡とか、遊びの待ち合わせ時間のメールとか。そういうのってもちろん消えたら困るんだ。ケータイが手帳みたいなもんだし。でもさ、消したくないのってそういうメールじゃないんだよね。」
 「どしたの、かな」
 「だからさー。」
 彩の大げさな驚きにかまわず、かなは机に突っ伏すと、いやいやをするように身体を揺すった。机が踊るように鳴った。
 「寒いね、って打って、そうだね、って返信してくれたメールとかさ。なんかそういう他愛ない内容なの。うまく言えないけど」
 かなは、まるでここに居ない誰かに言うように呟いた。いつもの彼女らしくない物言いに、恋がうまくいっていないのだろうかと思う。相手の返信が遅かったとか生返事されたとか、その程度でありますように、と花は思った。
 確かに、知り始めた恋は他愛ないことがとても光る。電話をしたいなと思った時にかかってきた声や、同じチョコレートを買ってきた午後。広生のためにマフラーとか編むのもいいなと思う自分に気づいたり、同じ本に意外な感想を聞いたり。
 「やっぱり壊れる前にメールは保存しておきたいな」
 花が呟くと、かなが小さく笑って頷く、彩は眼鏡を押し上げた。
 「どうやって保存するのとか、長岡に聞いたら駄目なんじゃない?」
 「えー? あの彼なら一緒に考えてくれるんじゃない?」
 「うん、詳しそう」
 彩は軽く首を横に振った。
 「これは消してくれとか、これはいいとかチェックされそうじゃない?」
 花は少し考えた。
 「…でも、そういうのも楽しそう、かも」
 かなが、だよねえ、とうっとり相づちをうつ横で、彩が眉間に皺を寄せている。ふたりの様子に笑い出しながら、帰り道にこの話題を自分はできるだろうかと思った。きっと照れてしまって駄目だろう。それにいまの自分は全部選んでしまう気がする。それを分かっていて選ぶ自分を遊ぶのだ。そうしてメールを読み返すあいだ、ずっと聞こえているだろう広生の声に心を寄せ恋を確かめるだろう。花はそっと、携帯電話を撫でた。それはこの携帯電話でなくてもかなうことだけれど、あなたから聞こえる彼の声は特別だから、できれば、もう少し。
 「頑張って、ね」
 花は、呟いた。


(2013.11.1)

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