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書店の新刊が積んである台を目で追う。なんとなく寄った大型書店は今日に限って読みたいものが多い。おこづかいもそんなに持ってきていないし、もうこれ以上は目の毒だ。そうでなくても、さっきまで立ち読みしていた雑誌のせいで考えすぎて頭がちらくらする。
誕生日だ、と花は思った。もうすぐ、広生の誕生日だ。
これを聞き出すことを想像するだけでも多大の努力と緊張を強いた。だが、友人のかな があっさり、雑誌の星占い特集号で騒いでいるときに通りがかった広生から聞き出した。彼も、上手にかわすときはかわすのに、かな相手だと少しばかり違う。かなに広生自身を狙う気がないからではないかと花は見ている。…というか、そう思いたい。
広生はひいき目でなくてもかなりカッコイイと思う。かな の少しばかり強引な話に付き合っているときの顔は大人っぽいし、彩と参考書の話をしている時は凛々しくて好きだ。アイスクリームをほおばっているときは可愛いし、電車でうたたねしている横顔はあんまり無防備でどきどきする。かなが、広生君のどこがスキ?と聞いてきても答えられないのはもったいぶっているわけではなくて、全部を追うのに忙しいからだ。
その、格好よすぎて困る彼氏の、誕生日をお祝いする。いったい何をあげたら喜ばれるだろう。
かなは、ジブンをあげちゃえばいいじゃないと笑った。その後頭部をつついてから、彩は当人に聞けば、と言った。前者はまだかなりすごくとっても早い気がするし、後者はもっともだけどあからさますぎる。
会計を終えて外に出ると、西日がまぶしい。花は鞄を抱え直して歩き出した。
自分の選ぶ服やアクセサリーは広生のカッコよさに及ばない気がする。さっき眺めていた雑誌でもぴんとくるものはとても高価だった。本も彼は好きだけど、本をあげるのはとても難しい。まさか子ども相手ではないのだから図書券というわけにもいかない。無難なところでキッチンツールか。エプロンをして腕まくりしている広生はびっくりするくらい様になる。ああでもそれだと、またおいしいものを食べさせてねと厚かましい催促に取られたらどうしよう。はあ、と花はため息をついた。
出会ってからたくさん話したと思ったのに、思い出してみると広生の欲しいものが思いつかない。自分の食べかけのチョコレートもいい天気も彼は同じように幸せそうだ。
ラブレターでも書いてみようか。そういう彼を見ているのが好きだと、それだったらいくらでも書けるかもしれないけど、でも誕生日に手紙なんて子どもみたいだ。
ふいに呼ばれたような気がしてあたりを見ると、広生が真後ろで微笑っている。
「追いついた。ずいぶん呼んだぞ。どうした?」
花は小さく首を横に振った。そして笑った。彼に会うといつも、どうしようもなくこみあげる熱さをこらえきれなくて、笑う。
「ううん、ちょうど考えてた」
彼はちょっとぽかんとした。それから、横を向いた。
「…反則だろう」
「え?」
「なんでもない。ちょっと付き合わないか?」
彼がすぐ横のコーヒーショップを指差して、花は大きく頷いた。これはチャンスだ。彼が欲しいものをさぐってみよう。頭のどこかで、少しいじわるだった師匠が笑う気配がして、花は気合いをいれた。
(2012.9.25)
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