二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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公瑾さんと花ちゃんの婚儀話、三日前です。
花は、掛けてある衣におそるおそる触れた。帳を下ろした薄暗い部屋でも分かる鮮やかな緋色は、花が触れても熱くなったりしない。熱いのは心だけだ。
あやふやな未来で夢見ていた衣装は白だった。現実は仕方なさそうに好きですよと言い、恐ろしく甘い腕で抱きしめ責任を取っていただきたいとのたまった。
花は花嫁衣装の裾を掴んだ。冷たい感触は、いままで公瑾に誂えて貰った衣と違う。彼はいつも肌触りがよく軽く柔らかいものを選んでくれていた。色合いも淡く、強い色を遣う範囲は狭い。でもこれは少し強くて、しっとりと重い。衣装をそっとたぐりあげ、胸に抱きしめる。さんざん衣装合わせをして何度も着たのに、初めて触るもののようだ。
これを着るのは自分だ。
「現実感、なくなってきちゃった」
花はひとり、笑った。
公瑾がきれいだと思えば、自分の平凡さに落ち込みもした。彼が有能だと思えば、自分の出来損ないの字を恥じた。そういうひとだと分かっていても彼が冷たい物言いをすると心が少し欠ける気がした。しかしやはり側に居たくて戻ると、いつの間にか心が埋まる。そんなことの繰り返しだった。
婚儀を待ったという気持ちはない。ただ戻れない「あちら」を夢に見るだけだ。喬姉妹や仲謀はずいぶんやきもきしていたと言うし、実は公瑾も気にしていたらしいが、花にはまるで差し迫った感じはなかった。公瑾の側に居ることはずっと前から決まったことのような気がしていて、それを芙蓉姫への文に書いたら、絶対それは公瑾に言うなと大きい文字で書かれていた。その理由はまだ分からない。
…恋を、しているだけだ。
あのひとはまるで謀を成す時のように自信に満ちて、婚儀を挙げましょうと言った。
花はひとつ息をついた。あの細心なひとのほうが、不安はずっと大きいだろう。あなたは転がる鞠のようだと、よく注意される。花が呉の娘となるのもたいへんだったのだから、ただ選びました、で通ったはずがない。
それでも彼は自分にこの衣を選び、似合うと微笑んだ。
「…おかあさん、おとうさん」
派手な色は似合わないってよく言われたけど、一生に一度のことだもの、きっと似合うと思うの。あのひとが見立てた嬉しさで溢れるこころに、この色はとても合っているから。
あのひとの側にわたしは行くだけだし、居るだけになるかもしれない。それでも、手は離さないよ。あのひとがもう二度と、夢に傷を負わないように。
恋をしているだけなの。…だから。
「伯符、さん」
花は宙を見て目を閉じた。
頑張りたいよ。だから、もう少しだけその幻を貸してください。わたしの届かない公瑾さんの世界を、見ていてください。
花は頭を下げた。そうして、部屋を出た。
どこからか紛れ込んだ白い花びらが、花嫁衣装の肩をかすめて、落ちた。
(2010.11.18)
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