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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 公瑾さんと花ちゃんの婚儀話、当日です。
 
 

 
 
 
 すっかり着替えを終えた花は、窓から外を見ていた。日差しは薄曇りだが、この程度の日のほうが婚礼衣装は映えると公瑾がいつか言っていた。
 もうすぐ、自分は人々の前に出る。ざわめきは棟の端にあるこの部屋にさえ聞こえてくるのだ、どれほどの人が集まっているのか想像もつかない。いつかテレビで見た、芸能人の結婚式のようにひとが溢れているのだろうかと思うと、不安になる。
 今日はまだ公瑾に会っていない。そのことが不安をさらに増す。今日どころか、と彼女は唇を噛んだ。一昨日から、最後の段取りの確認とかで侍女たちに包囲され、声を聞くことさえ叶わない。花嫁は勿体を付けて現れるものですわと微笑まれると、ふだん、勿体を付けてばかりいる公瑾を見ている花としてはそんなものかなと思う。
 花は裾に注意しながら立ち上がった。新しい空気が吸いたかった。
 窓辺に寄ると、突然、にゅっと何かが差し出された。
 「花ちゃん、おめでとー」
 「おめでとう」
 悲鳴が喉で止まる。着飾った悪戯っぽい笑顔がふたつ、窓辺に並んでいた。大喬小喬姉妹委が差し出している大きな白い花を、花はそっと受け取った。
 「一本だけでごめんね」
 「咲いたの、これだけなの」
 「花ちゃん、言ってたでしょ? 花嫁さんは白いんだって」
 「だから差し入れ!」
 口々に言う姉妹に花は微笑んだ。ささいなことを嬉しいほど覚えていてくれる。
 「大喬さん、小喬さん、ありがとうございます。」
 姉妹は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。花の知る菊に似たその白は、もっと大きく花弁が長く、茎ががっしりしている。切り口は新しく、青い匂いのする液体が滲んでいた。
 「いい匂いですね」
 「良かった」
 「花ちゃん、公瑾が向こうでそわそわしてたよ」
 「あれはかなり本気の笑顔だったね、お姉ちゃん」
 花はその言葉に苦笑した。この姉妹が言うなら、公瑾もこの日を楽しみにしていたことを信じていいのだろう。
 「緊張してきました」
 花はちょっとおどけて見せたが、自分でも分かるほど唇の端が震えた。姉妹はまた顔を見合わせ、背伸びして花の手に手を添えた。小喬の唇が震えたのが見えて、花の胸が熱くなった。大喬がそんな妹とちらりと見ると、厳かなほどの口調で言った。
 「それは花ちゃんの剣だよ」
 花は瞬きして手の中を見つめた。折り重なった白い花弁に胸のすっとするような香りは、かえって公瑾のようで、いつも彼が腰に帯びている長剣を思い出させた。
 剣となるような知識も、あのひとの外套ほどの包容力もまだないけれど…わたしは公瑾さんの盾になりたい。それこそ、矢の一本しか防げなくてもいい、涙の一粒でもいい、防げたなら。いつか公瑾の言っていた本懐、という言葉が、すとんと胸に落ちた。花は姉妹に微笑んだ。
 「ありがとうございます。見ててくださいね」
 おー、と、姉妹は小さい拳をつきあげて幼く唱和した。
 可笑しそうに、花様、と呼びかけた侍女に頷く。姉妹はもう後ろ姿を見せて駆けだしていた。決められた席次はともかく、内緒の特等席で公瑾の表情を逐一観察するつもりに違いない。侍女が恭しい手つきで、花の顔の前に紅の紗を下ろした。さわさわと侍女たちが集まってくる。いよいよこの部屋を出る時刻だ。
 自分も公瑾の表情を見たい。でもきっとこの紗幕の力を借りて、しかもちらちらとしか見られないだろう。公瑾は結局、花の姿は何度も確認したくせに、自分の花婿姿はのらりくらりと僅かも見せてくれなかったから、きっと見とれてしまう。
 彼女は、袖を差し出した侍女に白い花を預けた。
 ――花は、枯れてもまた咲く。でもこの白は自分の中でずっと咲いている、と思った。
 
 
 
(2010.11.21)
 

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