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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花公瑾』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 
 
 
 『花公瑾』は、最初に落ちた場所が公瑾さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
 
 
 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。


 
 
 「伯符。…伯符、どこです」
 柔らかい女の声に、伯符は目を開けた。
 小舟は桟橋にもやってある綱の限り、ゆるゆると川面を漂う。川風を彼は深く吸った。いい夕暮れ、いい風だ。いま綱を解けば、この風は自分を連れ去ってくれるだろう。…あの静かな声から、遠くに。
 「伯符!」
 女の声が少しいらだちを含む。目を瞑ったまま、彼は微笑んだ。もう少し、もう少し。
 「もう、どこに行ったのかなっ」
 ああ、この声だ。
 いつもの取り澄ました、周家の総領という立場にいる希有な娘ではない。いつも静かで、他人を説得し、なだめ、謀を巡らす声ではない。年相応の娘の声だ。
 それこそを、伯符は愛している。
 どんな地位の、誰からの婚姻のほのめかしにも、彼女は涼しい顔で断りを言う。わたしは孫家のために在る身ですからと、しゃらりと言う。それがいつも嘘と、伯符は確信している。
 聞いたことはない、けれど、分かる。自分が彼女しか見ていないから。
 彼女の琵琶が、それを告げる。琵琶を撫でる手が、それを教える。あれは彼女の琵琶であって彼女のものではない。
 この綱を解けば。
 彼女から遠くに行ける。
 …彼女の志から遠くに。
 「おう」
 だから、答えてしまう。
 彼女の志は自分の志でもあるから、応えてしまう。
 「またそんな危険なところで昼寝をして」
 呆れた声が、岸のほうから聞こえた。彼が起き上がると、桟橋に仁王立ちしている縹色の衣の娘が見えた。小柄なのに、どこか逆らえない迫力を身につけた娘は、初めて会った日から彼を捕らえている。
 「馬鹿な方。」
 「そう言うな、気持ちいいぞ」
 「わたしはまだあの世に行きたくありません」
 「大げさだな」
 彼女は大きく肩をすくめた。
 「さあ、かくれんぼはおしまいです。軍議が始まりますよ」
 「ああ、そうだったな」
 伯符は綱を引いた。船を近づけ、岸に上がる。娘は頭ひとつ高い伯符を、静かな面で見上げてくる。
 「今日の軍議で確実に重臣たちを靡かせるぞ」
 「はい」
 平静な声が肯う。
 「孫家の中原制覇のために」
 …何故俺は、こんな当たり前の言葉にひどくいらだつのだろう。そして、この上もなく力強く感じるのだろう。
 歩き出した彼のうしろを、小さな軽い足音がついてくる。
 「公瑾」
 はい、と足音と同じような優しい声が返る。
 足音は、出会った日から変わらず自分の後ろをついてくる。それだけをよすがにこれからもずっと生きていけるだろうと、伯符はひっそり微笑った。
 
※※※ 
 
 花は伯符の後ろを歩きながら、細く長く息を吐いた。
 「伯符」の背中はいつも大きい。
 自分が公瑾の側に居た時は想像するしかなかった、ただ憧れるだけだった「彼」は、その伝説じみた逸話の通り、とても大きいひとだった。
 今度は、成功させなければ。花は上衣の裾を強く握った。
 一度目は、彼を守るだけで精一杯だった。
 二度目は中原制覇まであと一歩というところまで行ったが、彼は暗殺された。
 三度目は、二度目の悔いのために花は彼に体を許してしまった。その結果、宿した彼の子のために、お家騒動に巻き込まれて「公瑾」は暗殺された。
 …今度が、「周公瑾」となって四度目だ。
 花は空を見た。あのひとの好きだった深い青が広がっている。見つめていると吸い込まれそうなところまで似ている。
 (…公瑾さん)
 あなたの代わりに、という志をもう二度と忘れたりしません。
 三度目のように、「花」として生きることを望んだりはしません。
 わたしは、周公瑾です。今度こそ、「あなた」を守り抜きます。
 歩いて行く背中に、花はひっそり誓った。
 
※※※ 
 
 (…花、花。起きなさい、花。)
 (…こう…きん、さん?)
 (どうしたのです。眠っているのに涙など流して…悲しい夢でも見たのですか)
 (公瑾、さんっ…)
 (落ち着きなさい。わたしはここに居ます)
 (公瑾さんが、どこにも、いなくて)
 (花)
 (わたしが、わたしが公瑾さんになって伯符さんを守らなきゃならなくなるんです…何度も何度も繰り返し、公瑾の名前で、公瑾さんがどこにも居ない…!)
 (花、花、落ち着きなさい。)
 (公瑾さん、公瑾さん…!)
 (よくお聞きなさい、花。それは夢です)
 (夢でも嫌です! 公瑾さんが居ないなんて、嫌!)
 (…いいですか、花。第一、あなたにわたしの代わりなど務まるはずがありません)
 (え?)
 (あんな…あんな酷い、砂を噛むような思いは、あなたに決してさせません。…さあ、泣き止みなさい。)
 (はい…はい。)
 (…それに、伯符と言えど、あなたの隣にいるのは少々複雑ですからね。)
 (え? 何ですか?)
 (何でもありません。おやすみなさい、花。こうして抱いていますから、安心なさい。今度は、よい夢を。)
 (はい…おやすみなさい。)
 
 
 
 (2010.10.2編集)

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