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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた『花文若』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 
 
 
 『花文若』とも、最初に落ちた場所が文若さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
 
 
 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
 
 



 
 
 文若が、静かに墨をすっている。その手つきは穏やかで淀みない。本来なら、彼女の墨を用意するのは側付きの者の仕事なのだが、彼女はよく自分で墨を擦っていた。落ち着くのだと言う。
 「なあ文若。お前の茶を飲ませてよ」
 だらしなくもたれた窓から声を掛けると、文若はやっとこちらを見た。唇が柔らかにつり上がる。決して絶世の美女、という訳ではないのに、不思議な陰影のある顔立ちをした彼女は、ひとめ見たら忘れられない。
 「もう休憩ですか、丞相」
 「うん」
 「先程も差し上げましたよ?」
 「だって、好きなんだ。文若の茶を飲むの」
 ふふ、と彼女が笑う。
 「では、ご用意いたしましょう。その代わり、今夜はここで仕事してくださいますね」
 「えー」
 「逃がしません」
 声はどこまでも柔らかい。表情も微笑んでいる。いつも着ている黒橡色の衣も色づいて見えるほどだ。
 白い指が茶器を並べていく。熱い湯と、香りのいい茶が流れるように用意された。
 向かいでその茶を飲みながら、彼女の様子を見る。
 彼女はいつも何かを愛おしむように茶を飲む。
 手の中の小さな白い茶器を、ただひとつの熱源であるかのように手のひらにおさめ、湯の面を見つめる。そこに何かが映っているかのように、自分がここにいることを忘れたようにただひたすらに見入る。
 亡くなった郭奉孝が、彼女に恋い焦がれていた彼がついに掴むことが叶わなかったその眼差し。
 聞いたことがあるんですよ、と、軽い声が甦る。
 何を見ているんですかと。すると彼女ね、もう会えないひとです、と言ったんです。とても嬉しいことのように。だからもう聞けないんですよ。
 …自分も、聞かない。
 彼女の茶を、「会えないひと」を想う眼差しを独占する。この時の彼女を見たら、みながその眼差しを自分に向けたいと思うだろうから、決して誰にも許さない。
 「文若」
 呼ぶと、彼女が瞬きした。視線が上がり、自分を見る。…ああ、彼女が「此処」に戻ってきた。
 「満足していただけましたか?」
 「ああ」
 誰もが知らない。
 天空の月を厭うこと。年頃と顔立ちに似合わない黒の衣をいつも着ていること。
 「では、こちらからご覧くださいませ」
 「ああ」
 簡を揃える手をただ見ていると、丞相、と呆れたように呼ばれた。
 「いやーごめんごめん」
 (ねえ、誰なの)
 誰にその手を許すの。
 いちばん聞きたいことは聞けないまま、自分たちは進んでいく。天下へ、帝の近くへ。
 (何度袖にされても駄目なんですよ)
 …これは、風の音だ。
 閉めた窓を叩く木の葉だ。
 (諦めきれないんです。)
 そこに自分の声が混じるような気がして、孟徳はきつく目を瞑った。
 
 
 
(2010.10.2編集)

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