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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 プレイするたびに、花ちゃんが可愛いなーと心底おもう…

 花ならぬことの葉。玄徳さんと花ちゃんです。




 扉をそっと押し開ける。その動作に応えたように灯心が尽きた。玄徳はひとつ息をついて後ろ手に扉を閉めた。
 椅子の上で、花が眠っている。
 彼女はまだ衣のままで、手に持った簡がもう少しで落ちそうだ。察するに、玄徳を待ちくたびれて眠ってしまったのだろう。彼は苦笑を大きくした。
 「…はな」
 囁いても、短い髪に見え隠れする寝顔はぴくりとも動かない。彼は小さく息をついて彼女の体を抱き上げた。柔らかい匂いが鼻先をくすぐる。赤子とも、成熟した妓女たちとも違う、やさしい匂いだ。花が住んでいた国の娘は、みなこういう匂いがするものだろうかと思う。
 回廊に出る。人目につかない道を辿って花の私室まで来ると、初めて彼女が身じろいだ。薄目を開けて、ぼんやり玄徳を見る。背で彼女の部屋の扉を開けながら、玄徳は笑いかけた。
 「起こしたか」
 ほえ、とも、ふえ、ともつかない、赤子のような声を上げて少しの間ぼんやり玄徳を見ていた花は、寝台に下ろされてはじめて、目をぱっちりと開けた。
 「げげ玄徳さん」
 「駄目だぞ、夜更かしは」
 冗談めかして言い、彼女の体に上掛けを巻き付けてやりながら、玄徳はその目線まで腰を落とした。花があたりを見回す。
 「ここ、わたしの部屋…」
 「ああ、連れてきた」
 「ごめんなさい!」
 花は立ち上がりかけてふらついた。玄徳は慌ててそれを支えた。小さな体がすっぽりと腕の中に入り、先ほど感じた花だけの匂いが強くなる。
 「すみませんでした!」
 「いや、いい。…それより、どうしたんだ? 教えただろう、男の部屋に夜にやってくるものではない。」
 「…玄徳さんの部屋でも、ですか?」
 上目遣いで肩をすぼませて言われ、玄徳は大きく咳払いした。
 「駄・目・だ。」
 「…寂しいです」
 「よけいに駄目だ。」
 花がしょぼんと黙る。その手を、彼は両手で握った。
 「すまないな。正式に俺の妻に迎えるまで、あまり目につく行いをすると互いのためにならない。」
 「…師匠にも、そう言われました…」
 玄徳は瞬きして花の髪を梳いた。
 「しゃくに障るが、こればかりは孔明の言う通りだ。俺だってお前の側にずっと居たい。我慢しているのは俺もだ」
 花はやっと顔を上げ玄徳を見ると、嬉しそうに笑った。
 「良かった」
 「なんだ、疑われていたのか?」
 「だって、玄徳さんはいつも涼しい顔だから」
 玄徳は上掛けごと花をくるんで抱き上げ、膝の上に乗せた。花に頬ずりする。彼女がくすぐったそうに身をよじり、玄徳の肩に顔をつけた。
 「玄徳さん」
 眠そうな、暖かみに酔っているような口調で花が囁く。
 「ん?」
 「だから、手紙を書きました」
 「てがみ? …ああ、文か」
 「はい」
 差し出された簡には、二行にわたって何かが書き付けられている。玄徳は唸った。
 「…これは、読めんな」
 「すみません、わたしの国の言葉ですから。…だって、玄徳さんが大好きですってどう書くんですか、なんて誰にも聞けなくて…」
 思わず満足そうに頷いた自分がおかしくて、玄徳は花を抱きしめる手に力を込めた。
 「そうだな。誰にも聞いて欲しくないかな。」
 花が、顔を赤くしながら笑っている。
 「芙蓉姫に聞いたらいいことなんですけど、なんだかとても…その、情熱的な文章を書かされるかもしれなくて、それはちょっと恥ずかしいっていうか」
 口ごもるのと早口になるのを同時にやってのけた娘の頭を、軽く撫でる。短いけれど柔らかい髪が、指に馴染むような気がする。
 「分かっている。お前から貰うものなのだから、読めなくても嬉しいぞ。」
 「ありがとうございます」
 「なんでお前が礼を言うんだ?」
 笑いながら言うと、花がことりと首をかしげた。
 「子どもっぽいから」
 「そんなことはない。明日、孔明に自慢してやろうか」
 「そ、それは止めてください」
 さっと青ざめた花に、玄徳も真顔になった。
 「どうして?」
 「師匠は…なんか、わたしのところの字が読めるんじゃないかと思う時があるんです。」
 花が考え考え言う言葉に、玄徳は瞬きした。
 「どうしてそう思うんだ?」
 「わたしが、こちらの字を覚えようと思ってちょこちょこ書き留めたのを、どうも分かってるみたいなんですよ。決してそうとは言わないんですけど…なんだか、見下ろしてにやにやしてる時があるから、そうなんじゃないかって。」
 「ということは、孔明はこれを読めるかも知れないのか」
 玄徳は目を細めて簡をかざした。それから咳払いしておもむろに花の顔を覗き込んだ。
 「それは不公平だ。」
 「不公平?」
 「俺が花の言葉を読めずに、孔明が読めるなんて絶対不公平だ。よし、明日から花が俺の師匠だ。」
 驚いて目を丸くした花をよそに、玄徳はひとり頷いた。
 「花の世界の字を読めるようになるまで、頑張らねばな。」
 「駄目ですよ! 玄徳さん忙しいのに、そんなことまで」
 「俺には大事なことだ。それに」
 花の耳に唇を寄せる。反射的に逃げようとする彼女の体をより引き寄せる。
 「それなら、花と一緒にいる時間が増えるだろう?」
 花が顔を赤くしながら、上目遣いに玄徳を見て小さく頷いた。ゆっくりと細い腕が玄徳の背に回る。
 「嬉しいです」
 幼く聞こえる声に、玄徳は微笑んで彼女の背を撫でた。…そろそろ、本気でまずい。玄徳は心から名残を惜しみながら腕を解いた。
 「ではおやすみ、花」
 身を離そうとする玄徳の頬に、温かいものがかすめた。花が微笑んでこちらを見ている。
 「おやすみなさい」
 「…ああ」
 扉のうちで鍵が掛けられて灯りが消えたのを確認し、玄徳はそのまま回廊の壁に背を預けて座り込んだ。
 玄徳は胸元から簡を取り出した。暗い回廊ではその字はほとんど見えない。唇を寄せれば墨の香りがする。花、と息だけで囁けば、あの不思議な香りがまだ腕の中にたゆたっている気がする。
 「今からこんなことで、婚儀を行ったらどうなるんだろうな俺は…」
 苦笑して玄徳は立ち上がった。



(2010.5.14)

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